製造業で生産管理や生産技術に携わっている人は、最近「スマートファクトリー」や「スマート工場」といった言葉を耳にすることが多くなってきているかもしれません。このスマートファクトリーの概念はかなり広く、それぞれの立場で意味するところが異なるケースも見受けられます。また、政府が音頭を取って、産業のスマート化を図る動きがあります。ここでは、スマートファクトリーの一般的な定義から、現在の製造業が抱える問題点、政府の掲げるスマート化へのロードマップ、ロードマップの具体例と現場での導入例を紹介します。

スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは、ドイツ政府が提唱したインダストリ−4.0を実践した先進的な工場のことです。具体的には、ロボットや人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)などを導入することで無人化、生産性や品質の向上などを図ることです。つまり、今までの工場の自動化をさらに推し進め、より高度な生産システムを構築することを目的としています。

現在のものづくりの課題とスマートファクトリーのロードマップ

このスマートファクトリーは日本の産業にとって大変なインパクトを与えると考えられており、経済産業省も2017年に「ものづくりスマート化ロードマップ調査」という調査報告をまとめています。このロードマップの中では、品質の向上、コストの削減、生産性の向上、期間短縮、人材不足、付加価値・提供価値の向上、リスク管理・トレーサビリティといった現在の課題とその解決策を示しつつ、20〜30年後のものづくりのあり方とそこに至る課題が述べられています。さらに、これらの課題に対して、以下の3ステップでの解決策が示されています。

  1. データの収集・蓄積

有益な情報を抽出し、見える化することで、得られた気づきをノウハウ化・知見化することです。たとえば、検査を自動化することで大量のデータを収集し、グラフや図などによって整理していくといった案が示されています。

  1. データの分析・予測

膨大な情報を分析・学習することで、現象の因子の特定や事象のモデル化、将来予想を行うことです。統計解析による因子分析や、人工知能による機械学習などによって、データを分析することがこれに当たります。

  1. データによる制御・最適化

分析結果や予測結果に基づき、最適な判断・実行を行うことです。分析によって発見された不具合を改善していくことが1つの例です。

こうしてみると、スマートファクトリーの実現には「データ」が非常に重要であることがわかります。以前の「自動化」では、寸法や重さなどの数値データだけでしたが、ここでいう「データ」はより広い対象を指すようになってきています。数値データだけではなく、画像や音、人の動きといった「生産システムで発生している事柄」を定量化したものといえるかもしれません。これらのデータが扱えるようになったのは近年のIT機器の驚異的な発展のおかげです。スマートファクトリーはIT技術の躍進によって実現できるといえるでしょう。

ロードマップの具体例

次に、上記の3ステップをもう少し具体的に見ていきましょう。たとえば、生産システムの課題が「品質の向上」とすると、品質の向上のためには「不良率の低減」が必要となります。このためには、まず、作業者のミスや、加工不良をセンシングしてデータを集めます。これが「データの収集・蓄積」の段階です。次に、「データの分析・予測」の段階として、過去のミスや加工不良を分析して、ミスや加工不良が発生しやすい工程を特定します。次に、ミスの発生した作業者に対して教育を行ったり、加工不良が発生した工程を回避する設計変更を行ったりします。これが「データによる制御・最適化」の段階です。

現場レベルでの取り組みの具体例

こうしたスマートファクトリーを実現するために、現場ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。

ある機械加工工場では、工作機械をネットワークでつなぎ、加工状態の確認や加工終了を知らせる機能を持たせました。いわゆるIoT化です。これにより、1人で複数台の工作機械を担当することができるようになりました。

また、加工時間をデータとして取得・蓄積できるようにしました。これは、「データの収集・蓄積」に当たります。そして、取得したデータを分析することで、加工時間の最適化が可能になりました。「データの分析・予測」と「データによる制御・最適化」が行われていることがわかります。この3段階を繰り返し行うことにより、加工条件や加工時間の最適化を日常的に行うことができ、生産性の向上や製造原価の低減などを実現できました。

また、同様に、工作機械(ここでは研磨加工を行う研削盤)にセンサを取り付け、研磨時にかかる研磨力などをデータとして測定・取得・蓄積できるようにしました。ここでも、蓄積したデータを分析することで、加工条件の最適化が可能になったのです。先に見たのと同じステップを含むことでスマート化を成功させていることがわかります。

これらの現場レベルでの取り組みは、今までの現場レベルでの原価低減活動などの延長線上にありますが、スマートファクトリーの最終的な狙いは、製品のサプライチェーンすべてにおいて知能化や自動化を推し進めていくことにあります。製品のサプライチェーンすべてがスマート化されたとき、製造現場は効率化やデータ活用が大きく進むことになります。ただし、ここで注意したいのは、日本の製造業はたくさんの工場や大規模なサプライチェーンを持った大企業だけではなく、中小企業や町工場にも支えられているということです。したがって、日本の製造業の発展のためには、これら中小企業や町工場を巻き込んだ形で進めていくことが必須といえるでしょう。

スマートファクトリーとエッジコンピューティング

以上で述べたように、スマートファクトリーではデータが非常に重要です。データの収集がスマート化のキーの1つだと言えるでしょう。しかし、サプライチェーン全体を対象としたスマートファクトリーを実現するとなると、データの量は膨大なものになります。加えて、これらをスピーディに処理していくことも必要です。こうした背景から、データの収集・分析・蓄積はクラウドコンピューティングが欠かせませんが、工場の現場とクラウドをつなぐことが難しい場合もあるでしょう、そのような場合は、エッジコンピューティングを導入することで、データの分析や処理をスムーズに行なうことができます。

スマートファクトリーの概念は広く奥が深い

今回は、スマートファクトリーの概念のごく一部を紹介しました。しかし、スマートファクトリーの概念はこれにとどまるものではありません。スマートファクトリーの概念はすでに述べたように、本文中で取り上げた問題点の解決・改善を目指すのが、スマートファクトリーの考え方です。いわば、工場を進化させるための技術的な取り組みすべてがスマートファクトリーといえるかもしれません。

参考:

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