PCには大きく分けて産業用のものと民生用のものがあります。産業用PCと民生用PC、これらにはどのような違いがあるのでしょうか。産業用PCとはどのようなものか、産業用PCの特徴や使われ方をご紹介しながら、産業用PCの市場規模が拡大している理由を解説します。

産業用PCとは?民生用PCとの違い

一般的に産業用PCと呼ばれているものには、明確な基準があるわけではありません。産業用PCは、FAPC(ファクトリーオートメーションパソコン)、エンベデッドPC、組み込みPCなどと呼ばれることもあり、また、これらの総称として産業用PCと呼ばれることもあります。こうしたPCの呼び名からわかることは、製造現場や管理設備において、制御装置や産業機器の一部として組み込まれたPCが産業用PCとカテゴライズされているということです。

逆に、製造現場や管理設備ではなく、開発用・事務用・家庭用として使われているPCは民生用PCと呼ばれています。民生用PCは、幅広い範囲で使われることを想定し、処理能力や汎用性、コストなどを重視して設計されています。一方、産業用PCの設計で重視されるのは、長期間の安定稼働や厳しい環境への耐性などです。

産業用PCに求められる条件と特徴

産業用PCは民生用PCと比較し、次のような特徴があります。

供給と保守の長期安定

民生用PCは続々と新モデルが登場し、OSやソフトウェアも短期間で新しいものへと切り替わっていきます。このような変化は、機器の入れ替えや動作検証のやり直しなど、膨大な手間と時間、予算がかかる大きな負担となるのです。

また、民生用PCでは、新モデルへと移行していくのに合わせ、旧モデルの部品供給やサポートも終了していきます。長期の稼働を想定している大規模な設備の制御システムにとって、部品供給やサポートの終了はシステム再構築が必要となる可能性もある大きな問題です。こういった面からも、産業用PCは供給と保守の長期安定が必須です。

レガシーモデルへの対応

部品供給や保守の長期安定が約束されていることに加え、古い世代につくられた事業モデルの制御システムに対応できるという点も産業用PCの特徴です。民生用PCにおいて構成の基本となる部分には「第○世代」という言葉が使われます。この世代が切り替わると組み合わせて使うことができなかったり、パフォーマンスを発揮できなかったりすることがあります。産業用PCではこういったレガシーモデル(旧世代)にも対応できる場合が多く、制御システムを長期的に維持できます。

長期連続運転が可能

民生用PCは、使わない時間帯に電源を切ることを前提に数年の耐用年数を想定して設計されていると言われています。一方、製造現場やインフラの制御システムで使われる産業用PCは、長時間止めることなく稼働しなければなりません。そのため、特にマザーボードや電源などの重要な部分について、高耐久で信頼性の高い部品が使われ連続運転を可能にしてあります。

厳しい環境下での稼働

オフィスや家庭で使われることを想定した民生用PCと違い、産業用PCはさまざまな環境下に設置される可能性が考慮されていなければなりません。高温多湿、粉塵、振動、電磁波の影響など、厳しい設置環境にも対応した設計がされています。

維持・復元のための上位サポート

一般家庭で使うPCにトラブルが発生した場合、部品交換やソフトウェアの不具合解消でトラブルは解決です。しかし、産業で使われる場合には、単純な部品・ソフトウェアそのものの交換だけではなく、トラブルの再発防止策が必須です。なぜトラブルが発生したのか、再発しないためにどのような対策が取れるのか、他のソフトウェアや機器への影響はあるのかなど、徹底した調査が必要です。
産業用PCのメーカーでは、こうした検証を行い、その結果をレポートとして発行しているところもあります。また、安定した稼働を維持し、もしトラブルが発生した場合にも可能な限り復元するための体制も整えられていることが多いのです。産業用PCの多くは、このような上位サポートが用意されています。

民生用PCと比べ特殊な条件・環境で使われることの多い産業用PCにはこういった特徴があります。これらの条件を満たすために、一般的には使われない部品が使われていたり、設備稼働を維持するためのサポート体制が充実していたりします。そのため、民生用PCに比べ産業用PCは大きなコストがかかっており、販売価格も高額なのが一般的です。また、使用条件・使用環境に合わせて仕様を選択・設定する場合も多く、受注生産となることもあります。

産業用PCとPLCの領域

ここで、産業用PCはどういった需要があり、どのように進化してきたのかを振り返ってみましょう。また、産業用PCと並び制御を司る部分として使われるPLC(プログラマブルロジックコンピュータ)とはどのように棲み分けがなされているのでしょうか。

PCが世に普及する前、さまざまな形のコンピュータが存在していました。産業用のコンピュータも同様で、PC普及前の産業用コンピュータは、ボードタイプのコンピュータをラックに組み込むものでした。

現在のようなPC形状のものは1980年代に登場します。1990年代にはCPUの革新とWindowsの登場によりボードタイプのものはあまり使われないようになり、産業用PCが主流になっていきます。

一方で、制御に特化したPLCは現場の技術者・開発者を中心に支持されるようになり、普及が進んでいきました。従来から使われていたシーケンス図をラダープログラムという形で簡単に組むことができ、さらに操作の簡易化や制御の見える化も実現されてきました。こういったPLC自体の進化とサービス体制の充実により、制御分野ではPLCの浸透が進んだのです。

このように、産業用PCができることの一部、制御についてはPLCのほうが得意なことから、それまで産業用PCを使っていた場所でPLCへの置き換えも進みました。しかし、産業用PCでなければできないこと、産業用PCのほうが得意とすることもあります。

PLCは、制御という面でより専門的な位置づけです。一方で産業用PCは、制御データを加工して表示したり別のアプリケーションと連動させたりすることができる広い守備範囲を持っているといえるでしょう。できることが重なっている部分もあり、それぞれが排他的な存在と考えられた時期もある産業用PCとPLCは、今では得意とする領域が分かれてそれぞれ別の進化を続けています。

産業用PCの需要が増加している理由

前段で見たようにPLCとの棲み分けが進んできた産業用PCですが、近年産業用PC市場に変化が起きています。

2019年、ミック研究所は「エッジコンピューティングで拡大する産業用PC市場の現状と展望2019年度版」を発刊しました。これによると、産業用PCは2018年から2022年にかけて年平均成長率5.7%となり、市場規模1,361億円に達すると予想されています。

この予測のように、産業用PCの需要が拡大し、さらに市場も成長していくと予想されているのには2つの理由があります。

1つが、産業用PCがPLC並みに高信頼性と耐環境性を備えてきたことです。動作の安定性や、密閉性や防水性といった環境への耐性は、従来PLCが一歩リードしていました。しかし、近年では発熱の小さいCPUやマザーボードの開発によりその差は埋まりつつあります。

もう1つの理由は、制御システムにおける「情報の重要性」があらためて注目されていることです。IoTやAIが実用化され、制御システムにおいても重要な位置づけになるなかで、やり取りされる情報の重要度も増しています。情報をどのように取得し、価値を損なわずに届け、いかに有効に使うか、といったことが追求されるようになっているのです。

このような価値ある情報をより有効に利用するため、注目を集めている技術があります。それが、情報のリアルタイム性を高め、IoTやAIを次のステップへと導いていくエッジコンピューティングです。

従来のIoTでは、多くのケースにおいて見える化のためだけに情報が使われてきました。しかし、今後は収集した情報をビッグデータとして解析・活用することで生産力の差が生まれると予想されています。そのためには、必要に応じて現場側でデータ解析を行い、情報活用の速度を上げるエッジコンピューティングが必要となっていきます。こういったデータ解析と、クラウドへの接続、さらにこれまでのデータの見える化もできる産業用デバイスが求められていることから、産業用PCの需要が高まっているのです。

ミック研究所の市場調査では、産業用PCがエッジコンピューティング用途に使われる割合について、どのような推移をたどっていくかも予想しています。エッジコンピューティングの定義には諸説あり、ミック研究所の定義するエッジコンピューティングは狭義であるにもかかわらず、その推移は大きな伸びを見せると予測されています。2018年には5.1%だった割合が、2022年には21%に達するとしており、産業用PCの多くがエッジコンピューティングのために使われることになる未来を予想しています。

エッジで産業用PCが躍進する時代へ

エッジコンピューティングが重要視されるようになるのと同時に、産業用PCの需要も増加しています。また、活用される分野の広がりとともに、産業用PCも今まで以上に進化していくことでしょう。これからの新しい制御システムのあり方に、産業用PCが不可欠なものとなっていくかもしれません。

参考:

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